開幕前スペシャルコンテンツとして、今回はクロアチアフットボールに精通しており、私の友人でもあるsunjicさんに、コバチッチのマドリー挑戦について特別寄稿をお願いしました。突然の移籍劇に伴う急なお願いにも、快く寄稿いただいたsunjicさんに、この場を借りて感謝の意を申し上げたいと思います。

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※当ブログ表記は、「コバチッチ」ですが、ここでは、sunjicさんの原文を尊重し、「コヴァチッチ」表記を採用しています。




特別寄稿
『あれから4年。2度目のベルナベウで課せられた「ミッション・ルカ」』

article by sunjic



 2011年11月22日、17歳にして初めてサンティアゴ・ベルナベウに足を踏み入れた。試合は6-2で完敗。身を持ってエル・ブランコの凄さを知ったあの日から4年の歳月を経て、今度は白いユニフォームを纏い再びベルナベウのピッチに立つこととなった。

 日本時間で8月18日の夜、正式にコヴァチッチのレアル・マドリーへの移籍が決まった。正直な話、報道が出始めたころは私自身この移籍には驚きを隠せなかった。

 しかし、報道によると、ベニテスはモドリッチの代役としてコヴァチッチをリクエストした、ということだそうだ。

 コヴァチッチは非常に器用な選手だ。アタッキングミッドフィルダーと位置付けられるが、他のポジションでも適応できる能力を備えている。ディナモ・ザグレブ時代、16歳でデビューした試合ではウィンガーとしての出場だった。その後、トップ下にも移され、若くしてレギュラーを掴み経験を重ねてきた。

 しかし、最終的に彼がディナモ・ザグレブで任されたのは4-2-3-1のボランチだ。機動力があり、配球するだけでなくボールを前に運ぶことができ、さらにハードワークを見せ、彼はディナモのエンジンとなっていた。もともと目は付けられていたのだろうが、その活躍により、そのシーズンに彼はインテルへ移籍することが決まった。インテルでもストラマッチオーニ時代のレジスタに始まり、インサイドハーフやトップ下など、監督交代の影響も受け2年半で多くのポジションを担うこととなった。

 コヴァチッチの長所は、もちろんパスセンスにも秀でているのだが、ピッチ上の状況を把握する能力とボールを運べる部分にあると私は考えている。ドリブラーにはスピードやテクニックで相手を抜くタイプと、ピッチ上でボールを持ちあがる推進力を持ったタイプがいるが、彼は後者だ。コヴァチッチの運ぶドリブルは、テクニックとコース取りの上手さによるものである。ピッチの状況を把握した上で効果的なドリブルコースを選択し、スルスルと持ち上がっていくのが彼の持ち味だ。また、その把握能力があるからこそ、惚れ惚れするようなパスも出せるのだろう。深い位置から持ち上がり、バイタルアリアで前を向いたコヴァチッチから感じられるワクワク感と言えば堪らないものがある。

 この彼特有の持ち上がりは、モドリッチと比較してもコヴァチッチが胸を張れる部分だ。両者共にパスもドリブルも兼ね備えた選手ではあるが、散らし、配球能力ではモドリッチが上を行く一方で、ボールを運ぶことに関してはコヴァチッチが勝りうる。ただ、モドリッチには経験に裏打ちされた、行くべきか行かないべきかの判断力があり、このような戦術理解度はコヴァチッチに欠けているものだ。守備に関してもモドリッチが優れているのは言うまでもなく、総合力で見ればモドリッチに軍配が上がるのは間違いない。

 判断力や守備以外に挙げられる彼の懸念材料は、メンタルの部分だ。彼は真面目で繊細な選手だ。プレーが上手くいかないとふさぎ込み、シュートを何本も外せば試合中でも不貞腐れてしまう。これがいわゆる彼のムラッ気、プレーの波の激しさに起因する部分である。代表では、よくピッチ上でモドリッチやラキティッチなど先輩の選手たちに声をかけてもらっているそうだ。マドリーという大きなプレッシャーのかかる舞台で、その性格が災いしないか、気にせずにはいられない。

 フィジカルの部分でも彼は完成された選手ではない。屈強な選手になれということではないが、彼がゲームメイカーとしてプレーするには攻守両面において今以上にタフな選手でなければならない。モドリッチは彼を「ボールをキープするうえで、コヴァチッチには強さが足りない。」と指摘する。

 現状、彼はマドリーで求められるものを全て持ち合わせてはいない。だからこそ、不安は大きい。それでも、コヴァチッチにとってマドリー移籍はまたとないビッグチャンスだ。

 「モドリッチの代役」という名目であるが、彼はモドリッチほど完成された選手ではない。だが、ゲームメイカーであるクロース、イジャラメンディと異なり、前を向け攻撃の幅を与えるモドリッチの離脱が大きな痛手となったのは昨季で明らかになった。このモドリッチ不在時にマドリーが失うものを、先述したストロングポイントをコヴァチッチが十分に発揮することができれば、彼のやり方でチームに齎すことは可能だ。

 2ボランチの一角ということもあり、より懸念される守備については、ベニテスの手腕に期待したい。守備から作り上げる監督であり、チェルシー時代もディ・マッテオ時代に存在しなかった守備意識を若い攻撃的選手に植え付けた。現在はモウリーニョ仕様となったが、アザールらの守備意識を変えたのはベニテスだ。さらに、先に述べたように彼には4-2-3-1のボランチの経験もあり、全く不慣れな状態からのスタートでもない。

 こう考えると、バックアップとしてのコヴァチッチの選択はなるほどと思わせるものがある。出場機会も、ローテーションを用いるベニテスであるため多少は与えられるだろう。不安もあるのだが、コヴァチッチならば見てみたいとも思わせてくれるのだ。

 さらに、クロアチア好きの私は、マドリーという環境がコヴァチッチを大きく成長させてくれるのではないかと期待している。

 1つは、同胞モドリッチの存在だ。ポジション的にもプレーにおけるお手本である上に、精神的な面で大きな支えとなってくれるはずだ。モドリッチ自身、今でこそ成功を掴んだものの、マドリーへ移籍した直後は批判に晒されブーイングも浴びてきた。栄光も、苦難も知っている先輩の影響は計り知れないだろう。

 もう1つは、マドリーでしか得られない経験値だ。インテルもビッグクラブではあるが、彼が所属したインテルは中位を争うクラブだった。代表のキャプテンであるスルナには「早くビッグクラブへ行け。ビッグクラブと他のクラブでは成長速度が違う。」と移籍を勧められる程だ。スルナの言うように、常にワールドクラスの選手たちに囲まれたポジション争い、リーガという高いレベルでの優勝争い、ハイレベルな舞台でも揉まれる経験値は今までの環境では得ることができなかったものであり、弱冠21歳であるにも関わらず伸び悩みとも指摘される彼にとって起爆剤となるのではないだろうか。

 コヴァチッチはまだ光るものを見せるフットボーラーに過ぎない。しかし、その時折見せる光は怖ろしく眩いものだ。だからこそ、光り輝くフットボーラーの中で自分も光り続ける術を学んでほしい。同じようにその術を学び、一際輝くようになった先輩もいる環境の中で、コヴァチッチがどれだけ羽ばたけるか。私は楽しみだ。



šunjić (@sssunjic)
普段はチェルシーファンだが、モドリッチに魅せられ気づけばクロアチアフットボールを追うように。代表とともにディナモ・ザグレブも応援中で、新たな才能をいち早く見つけるのが楽しみ。