ラファエル・ベニテスのチーム作りは、まずまず悪くはない。
コンセプト自体には一貫性を感じるし、いくつか明確な意図が見て取れ、その点は評価に値する。

 システムはベニテスのトレードマークである4-2-3-1に、ベイルを最前線に置く4-4-2を併用しているが、ベイルのふるまい方による違いだけなのでこの数字上の差はあまり意味をもたない。

 守備に関しては、ディフェンスラインの4人と4人の中盤による4-4のブロック守備を採用。カルロ政権にはややファジーになっていた組織を締め直した印象だ。モドリッチとクロースという攻撃的なペアを採用していることもあり、バイタルエリアに侵入を許すこともあるが、組織の成熟度としては悪くない。
 中盤の守備力に関しては、サイドハーフ次第という印象だ。守備タスクに忠実なルーカス・バスケスやチェリシェフなど控え組を起用すれば守備力は上がるが、守備に積極的でないクリスティアーノを筆頭に、レギュラー組を起用した場合は両ピボーテがそのまま相手攻撃陣にさらされるシーンも少なくない。

 攻撃で評価すべき点は、ストライカーの獲得が見送られた場合に事前に備え、意図的にヘセを9番として起用できるように準備したことだ。連携不足からまだチームとして機能しているとは言いがたいが、ベンゼマの健康体に頼りきりで代案を用意しなかったカルロと比べ、この点は用意周到なベニテスらしく、評価すべき点と言っていいだろう。

 とはいえ、攻撃に関しては問題が山積している。プレシーズン通じて得点はほぼ個人技かセットプレーに限られた。ポゼッション時にはリズミカルにボールが回るのは去年と変わらないが、ベイルを再配置したベニテスの4-2-3-1はアタッカー間の距離間が遠く、攻撃時の連携面はリセットされた印象だ。攻撃時はカウンターに強いアタッカーの特性を活かし縦へより早くするというアプローチが間違っているとは思わないが、攻撃がある程度形になったのはローマやシティなど、前に積極的に出てくる相手に限られた。今後連携が熟成されたとしても、モウ時代のように引かれた相手に対する崩しの面では今後大きな不安があるといえる。コラム本文でも指摘したように、ベイルのトップ下起用もここまではあまり機能していない。ベニテスには、ベイルのトップ下起用に対する忍耐力と、一定時間機能しない場合の見切りの両方が求められる。


 新加入選手にも軽く。ダニーロは高額移籍金にふさわしいパフォーマンスを見せた。攻撃の起点となれるのはカルバハルにはない武器で、彼の攻撃力は大きな武器となるだろう。前評判とは異なり守備センスも悪くなく、カルバハルがプレシーズンから躍起になるのもうなずける。
 
 カゼミロに関しては、調子のムラが大きかった。調子のいい時は彼特有のリズミカルなパス回しが武器となるが、存在感が希薄な時間も長かった。とはいえ調子によってはクロースのバックアップとして期待が持てる。
 
 エスパニョールから加入したルーカス・バスケスは、テクニカルな右サイドからの縦の突破力というマドリーにこれまでなかった武器のあるプレイヤーだ。とはいえ、フィニッシュやクロスなど、プレーの最後の局面の選択、精度に問題がある。レンタルバックのチェリシェフは逆にフィニッシュや力強い突破からのクロスで時折存在感を見せたが、ベイル同様にスペースがないと生きにくい印象で、去就が注目される。
 
 また、レンタルが濃厚となっているが、マルコ・アセンシオは大器にふさわしいポテンシャルの高さを魅せつけた。その活躍にはマドリー内部からもキープレイヤーとして残留させるべきではとの声が上がるほどで、その才能は図抜けたものがあるとはっきり確認できた。対照的にウーデゴーアは、まだまだ時間が必要だ。
 
 最後になったが、キコ・カシージャは安定したゴールマウスでの振る舞いで、ケイラー・ナバスと白熱したレギュラー争いを見せている。とはいえどちらもゴールマウスに張り付くクラシカルなタイプで、エリア外への対応には大きな難があり、どちらもデ・ヘアが加入すればベンチを温めることになるだろう。


 全体を総括するとするならば、チームの取るアプローチとしては、カルロが築いた4-4ブロックの守備、リズミカルなポゼッションに縦の攻撃の早さを加えようというコンセプトの元に進められており、アプローチの方向性としては悪くない。とはいえ再構築を強いられた攻撃面は連携の構築に相当の時間がかかると想像され、序盤戦、引かれた相手に攻めあぐねる展開でいかに勝ち点を取りこぼさないかがポイントとなりそうだ。