2014年という年は、レアル・マドリーにとってクラブの歴史上のハイライトリールの一部に確実に刻まれるであろう一年であった。リーガこそ3位に終わったものの、そのリーガチャンピオンであるアトレティコを劇的な展開で破って12年ぶり10度目のビッグイヤー、「ラ・デシマ」を達成。コパ・デル・レイも制し2冠。14/15シーズンも、序盤のソシエダ戦で敗れたものの、そこからは公式戦22連勝の新記録を達成。クラブ・ワールドカップも制し、一年を最高の形で締めくくった。

 しかし、世界王者のパッチをユニフォームに加えたチームは、2015年最初の公式戦であるバレンシア戦に敗れると、勝利したコルドバ戦も内容は完敗で、コパ、そしてリーガでもアトレティコに続けざまに無様な形で苦杯を舐めさせられた。直近の試合でも、主力をターンオーバーでほとんど温存したビジャレアルに引き分け、サン・マメス・バリアではビルバオにほとんどチャンスも作らせてもらえないままに敗れた。いったいレアル・マドリーに何が起こっているのか?月1回の当コラム、これを第1回のテーマとしようと思う。

レアル・マドリー失速の構造

 14/15シーズンのレアル・マドリーは、トニ・クロース、ハメス・ロドリゲスという2人のプレイヤーを加えた。フロレンティーノ・ペレス会長政権下のレアル・マドリーでは、所謂会長が連れてきたスタープレイヤーは、暗黙の了解としてベンチに置くことが事実上出来ない。昨年はこの枠にあたる選手はクリスティアーノ、ベイルのみであったが、ここにさらにハメス・ロドリゲスが加わり、トニ・クロースはやや状況は異なるが、ほぼそれに近い扱いである。カリム・ベンゼマはフロレンティーノがフランスまで自ら出向いてまで口説き落とした会長のお気に入りで、さらにいわば「偽10番」という特殊な役割を担う彼は戦術上事実上代役が存在しない。つまり、クリスティアーノ、ベイル、ベンゼマ、ハメス、クロースという5人のプレイヤーを、怪我などがない限りカルロ・アンチェロッティ監督は常時起用しなければならないという状況で采配を振るっている。これに加えて、今シーズンはイスコが覚醒。4バックを除けばフィールドプレイヤーは6人であるから、先述の5人を除けばわずか枠はひとつだけ。ここにルカ・モドリッチ、イスコ(この2名の序列は現在はほぼ同じと考えていいだろう)、イジャラメンディ、ケディラという序列で采配を振るっていた。実際にはモドリッチが代表戦で負傷した影響で、「6人目」は覚醒の時とほぼ同じくしてイスコが務めている。
 
 以上の6名は、他チームであればエース、あるいは10番を背負うような選手ばかり。イジャラメンディとケディラはともかく、それ以外は皆攻撃を持ち味とするプレイヤーばかりだ。こうしたプレイヤーをすべて並べる超攻撃的なスカッドを成り立たせるために、カルロは中盤にハードワークを植え付け、10番たちに運動量を求め、コンパクトなブロックを形成しインテンシティを産み出すことで解決策を見出した。特に中盤のハメス、モドリッチ、イスコという4-3-3のインテリオール(インサイドハーフ)を担当する選手には、過剰な運動量が求められることになった。トニ・クロースの守備難(改善傾向にある)や緩慢な危機管理も、彼らの負荷を増大させた。
 
 こうした体制がもたらしたものは一体何か。まずメンバーの固定化である。カルロはサイドバックの両名こそ積極的にターンオーバーを行ったが、基本的にBBC、ハメス、クロースは固定。6人目を負傷まではモドリッチ、その後はイスコが担当した。この結果、出ずっぱりのメンバーは次第に疲弊していった。まず疲労が現れたのは、モドリッチ、ハメスで、相次いで長期離脱を強いられた。ハメスの骨折は接触によるものではなく、疲労骨折に近いものであると考えられている。次の犠牲はトニ・クロースだった。ドイツ代表優勝メンバーである彼は、マドリー移籍後すべての試合に出場している。ここで言及しなければならないのは、14/15のシーズンのマドリーが、13/14シーズンのマドリーと構造上の大きな違いがあるということである。13/14シーズンのアンカーであったアロンソは守備のタスクがどちらかといえば主の、いわばリベロのような存在で、モウ時代のように組み立てのすべてを担うのではなく、その攻撃的な役割は限定されていた。しかし、今シーズンのマドリーは攻撃の出発点は常にアンカーのクロースに設定されている。特に年明け以降、この攻撃のスイッチを担うクロースの摩耗でマドリーは停滞した。それでも1月のマドリーが悪いなりにビッグゲーム以外を落とさなかったのは、W杯を含め昨年の蓄積疲労がなく、フレッシュな状態だったイスコのハードワークがかろうじてチームを支えていたからだ。2月にはそのイスコもとうとう疲弊し、ただでさえ負担の重い3センターのうちの2名が疲労困憊状態に陥ったマドリーは、それまでの好調を支えていたチームの武器のインテンシティが明らかに低下し、中盤の支配力が低下し、アトレティコに0-4と歴史的な惨敗。シャルケ、デポルティボには勝利したものの、中盤の疲弊によりBBCと中盤の距離が乖離したチームはチーム全体が間延びし、かろうじて前線と中盤を結びつけていたイスコがコンディションを落とすと、まともに前線にボールが供給すらできなくなり、ビジャレアル、ビルバオ相手には2試合通じてPKによる1ゴールと、自慢の得点力が影を潜めることとなったのだった。

・「想定の範囲内」と「範囲外」の可能性

 チームを年間コンディションを100%に保つことは不可能で、意図的にピークの時期を設定するものだ。チームによって、どこにチームとしてのピークを持っていくかは、そのチームの目標によって異なる。CLで上位を狙うチームは、1月や2月に一度意図的にコンディションを落とすのが年間を通したコンディションとしては一般的で、3月以降のCLやリーグ戦の佳境に向けてラストスパートに向けコンディションを再びトップに持っていく。その意味では、現在のコンディションの低下は、いわば、「想定の範囲内」なのである。私がここ最近の不調に楽観的なのは、「今はコンディションの底」という認識があるからだ。中盤を中心としたインテンシティが武器の現在のマドリーが、こうした状況でパフォーマンスが極端に落ちるのは、いわば必然なのだ。

 とはいえ、3月以降、順調にコンディションが上がっていくかは、必ずしもイエスとは言えないのが実情だ。「想定外」が起こる可能性があるのである。

 そのまず第1の理由は今シーズンの休暇の少なさで、W杯の関係でシーズンオフが短かった上に、CWCと12/30のドバイでのミランとの親善試合のせいで、マドリーの面々のウインターブレイクは極めて短かった。こうした状況が、疲労の回復を遅らせる可能性がある。

 第2に、主力の酷使がある。03-04シーズンには、中盤の要であったクロード・マケレレやスティーブ・マクマナマン、フラビオ・コンセイソンといった控え層を極端に減らした結果、ギャラクティコスが過剰な負荷を強いられ、プレシーズンの不備も重なり終盤に息切れ、シーズン最終盤にチーム史上初のリーグ戦5連敗を喫した例もある。今季の事実上ベンチに置けないスタープレイヤーの酷使(そして、前線の負担を減らしたヘセの低コンディション=控えの不在)はこのシーズンと重なる部分もあり、チームコンディションの上向きが遅れたり、一度上向いたとしても再失速する可能性が考えられるのだ。幸か不幸か負傷により離脱を強いられたペペ、ラモス、モドリッチ、ハメス(シーズン中に戻ってこれれば、だが)は問題ないだろうが、これまでほぼフル稼働した面々はこうした恐れがある。
 
 とはいえ、モドリッチの復帰が迫り、シーズン当初の「6人目」が戻ることで、イスコを休ませられる可能性が高まっており、冬に加入し早くもフィットしたルーカス・シルバ、残留したイジャラメンディと中盤には人材が揃った上に、ハメスの負傷により、「ベンチに置けない」選手は4人に減っている。「残り2枠」をこうした選手でやりくりすれば、序盤のマドリーを支えたハードワークによる中盤のインテンシティを回復することは十分に可能だろう。問題はバルサを筆頭としたリーガの熾烈な争いでメンバーを落としにくいことだが、モドリッチとイスコを交互に使えるだけでも大分状況は改善されるであろう。残る問題は、「攻撃のスイッチ」でありこれまで代役を全く試していないクロースに、どのように休養を与えるか、であるが…。このあたりは、CL優勝3回の名将、カルロ・アンチェロッティのチームマネジメントの腕の見せどころではないだろうか。


月刊フットボリスタ 2015年 04月号

ソル・メディア (2015-03-12)