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クリスティアーノのバロンドール受賞は、個人的には予想通りだった。12/26にEl Paisがフライングで報じていたし、マドリーの公式ホームページがわざわざバロンドールを生中継した(FIFAの公式ストリームがあったにもかかわず)り、バルセロナ、バイエルン界隈以外では、今季はクリスティアーノで決まり、といった雰囲気も感じられた。

ただ、投票結果を眺めて少々驚かされた。今年のFIFAバロンドールのクリスティアーノの得票率は27.99%、メッシは24.72%である。昨年受賞したメッシが41.60%、2位のクリスティアーノは23.66%であることを考えれば、かなり僅差、いや、大接戦である。

もちろん、3位となったものの、バイエルンでタイトルを総なめにし、「自身にとって最高のシーズン」と自ら豪語するフランク・リベリの得票率が23.36%と高かったことも要因のひとつだろう。 (2012年の3位、アンドレス・イニエスタの得票率は10.91%)
ただ、それにしても、今回はメッシには、昨シーズンのバルセロナの重要な時期にコンディションが上がらず、その末に負傷してしまい、試合に出られなかったという、クリスティアーノにとっては最高の「大義名分」があった。それなのに、という思いは正直に言えばある。客観的、というとマドリディスタである私の意見は信じてもらえないかもしれないけれど、昨シーズンの中盤以降のメッシは良くなかった。もちろん、メッシの中では、なのだけれど。得点はしていたけれど、運動量が極端に落ちており、仕事量が圧倒的に少なかった。

FIFAから発表された全投票者の投票結果のリストを見ていくうちに、FIFA加盟国全ナショナルチームのキャプテン、監督による投票が従来の記者投票に加わり、"FIFAバロンドール"となって、人気投票の側面が強くなった現システムに一言二言言いたくなる気持ちが御多分にもれず、改めて私の中にも起こった。「人気投票」の面で、クリスティアーノはメッシと比べ不利な立場にいる。
「ツッコまれやすい」人は、人気投票では不利だ。それはブラッター自身が、「C・ロナウドはメッシよりも、美容院にお金をかけている」という例の発言で証明してしまった。

実際に、かつて当ブログで紹介したCNNでのクリスティアーノのインタビューでは、こんなやりとりがあった。

インタビュアー「僕は何人かのジャーナリストに、去年モナコでのフットボール・オブ・ザ・イヤーの授賞式で会った時、その内の何人かは、彼らがメッシのほうがクリスティアーノより好きだから投票したといった。フットボールについてではなく、イメージによってだ。あなたは時にそのイメージの犠牲者だと感じることはある?」

クリスティアーノ「それについて泣き言は言いたくないんだけど…(苦笑いして)、時にはイエスだ。」



ともあれ、マドリーにおいての彼は、選手として円熟期に入っていると思う。
マドリーに来てからの彼の成長で際立つのは、技術、フィジカル的な側面よりも精神面だ。かつては、「ビッグマッチに弱い」などと揶揄された彼も、むしろ今はビッグマッチに強い選手となった…と言いたいところだが、モウリーニョ政権2年目のCL決勝でPKを外してしまったので、断定を避け、強くなっている、と今はひとまず言っておく。少なくとも、弱くはなくなったことは確かだ。近年のクラシコでは、ほぼ毎試合のように得点している。

プレースタイルはすでに完全に確立されている。左サイドをスタートポジションにするフォワード、が正しい表現だと思う。もはやプレーはウイングとは言えないし、彼のプレーからアシストのプライオリティはかつてよりも極端に減少し、よりゴールに特化した選手となった。

そんな彼のスタイルを、マドリーは温かく迎え入れた。
マドリーはもともと、例外的に優れた能力を持つ選手は、組織から開放して最大限に自由を与えて、その選手を中心に組み立てる文化のあるクラブだ。リスクを極限まで少なくすることを哲学にチームを構築するジョゼ・モウリーニョが(現在のチェルシーでの試合を見てみるといい)、彼の能力を活かすためにリスクを承知で左サイドで起用し続けたという事実が、彼の確立されたスタイル、そしてそのリスクを負ってでも使いたくなる桁外れな能力の証明だと思う。クリスティアーノ、マルセロで形成したマドリーの左サイドは、モウリーニョ史上もっともリスクを覚悟した布陣だろう。

アンチェロッティ政権での彼は、ここまでを総括すると、正直に言ってチームへのフィットは遅かった。厳密にはまだフィットはしきっていない。序盤、2トップの左という慣れないポジションを任されたこともあって、味方からスムーズにボールをもらえず、ポゼッションを志向するスタイルの中で、ピッチ上で「迷子」になっているシーンも目立った。
しかしそれでも、彼はゴールを取りつづけた。フィットしないままでも、彼はゴールを奪い続けていた。
そして、それまでコンディション不良だったベイルが布陣に本格的に組み込まれた11月あたりからチームのスタイルがポゼッションからやや縦の早さ寄りにシフトすると、それとともにクリスティアーノは調子を上げた。
アンチェロッティ・マドリーとしてのチームの完成は、出来かかっていたものが逆に遠のいた感があったことは皮肉であり、その結果現在のマドリーはフィニッシュに至るまでの崩しに昨年までのモウリーニョ政権と同様に苦しむ羽目となったが、ポゼッションのスタイルでは自慢のスピードを活かす術をなかなか見つけられずにいたクリスティアーノにとっては、現在の流れはむしろ好ましいものなのかもしれない。

さて、次に今更ながら彼の選手個人としても長所をあげるとすれば、最も優れているのはスピードやフィジカル、ジャンプ力といったアスリート的側面となると思う。ジネディーヌ・ジダンのような撫でるような繊細なタッチがあるわけではない。彼のプレーの魅力に近い選手は、マドリーで言えばポジションは異なるがロベルト・カルロスにあるようなそれだと思う。

鋼のような肉体、桁外れのスピードとパワーとくれば、思い浮かぶのはマシーン、サイボーグといった形容、イメージだ。その一方で、クリスティアーノ・ロナウドというパーソナリティは、そのイメージとは大きく異なるものに映る。

授賞式の前日のエスパニョール戦、彼のシュートはことごとく枠を外れた。彼は悪い日でもなんだかんだ最後には戦意喪失した相手から無慈悲に決めたりすることが多いのだが、この日は違った。心ここに非ず、という感じではなかったが、バロンドールのことが気になってそわそわして仕方がない、といった印象を受けた。
彼は、プレーしている時の気分が見ている側にダイレクトに伝わってくる。感情をストレートに表すし、ゴールが決められないと、周りを気にせずムキになってシュートに行く。それはまるでサッカーをやり始めたばかりの子供のようだ。

EURO2004で決勝で敗北した時、彼は泣いた、2014年、バロンドールを受賞し、彼はまた泣いた。10年間の歳月が、筋肉量を増やし、精神的にも成熟し、より完成されたプレイヤーにしたかもしれないが、根っこの部分は全然変わっていない。

クリスティアーノ、人間味があって、いい歳の取り方していると思うんだけどな。


※以前当ブログで紹介したCNNでのクリスティアーノのインタビューは、こちら